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オススメの本(第2回)
世界のたね 真理を追いもとめる科学の物語 アイリック・ニュート 著 猪苗代英德 訳 NHK出版 1999年
子供向けの本には大人にとってもいい本がたくさんある。新型コロナウイルス感染拡大のことを考えていた時、この本を思い出したので、ちょっと長いけれども、引用する。
1348年から1350年にかけてヨーロッパでは黒死病、ペストという伝染病が流行し、ヨーロッパの全人口の三分の一が命を奪われ、ヨーロッパ以外の国々でも何百万もの人が死んだ、と述べて次の文が続く。
「この病は人を選ばなかった。貧しい人びとも裕福な人びとも、おなじようにこの病におかされた。医者たちは、患者がつぎつぎに死んでいくのを、ただ黙って見ているほかなかった。いくら司祭たちが神に祈ったところで、まったくむだだった。
ほんの短期間のあいだに、まわりの人の三分の一が死んでいくという状況がどういうものなのか、きみもちょっと想像してみるといい。きみの町の住民の三分の一が、クラスメートの三人に一人が、家族の三人に一人が、いなくなってしまうんだ。きみなら、そのあとどうやって生きていく? そんなすさまじい災厄のあとに、生き残った人たちはなにを考えていたんだろう? 昔はメディアも世論調査もなかったから、当時の人たちの行動を知ることはむずかしい。でも、おおかたの人は、たぶん、神への信仰を失ったんじゃないだろうか。生涯の大部分を教会に捧げてきた人たちに破局が訪れたとき、助けてくれる神はどこにもいなかったんだから。
その思いは、黒死病がおさまったあとのイタリアで起こったできごとに、少なからず反映しているだろう。大災厄によって社会は完全に麻痺し、多数の農民や労働者がいなくなり、孤児は町にあふれ、修道院や大学は優秀な学僧や学者を失ってしまった。けれども、数十年後、イタリアは復興したんだ。そして、一つの革新的な運動が起こった。」(教科書で習うルネサンス運動の前にはこんなできごとがあったのだ。)
私たち人間は、何度も大きな危機を乗り越えてきた。歴史は、そのことを教えてくれる。科学の歴史に興味があるなら、この本はオススメだ。